現在の墨の生産地といえば、奈良が代表されます。それでは、奈良墨について、その沿革を述べてみましょう。
奈良墨には、様々な説があります。興福寺二諦坊で初めて油煙墨が作られたとすれば、日本の油煙墨の発祥の地は奈良であるということになります。空海が油煙墨伝来の祖となったという説もありますが、これは信用がおけません。
古来より、奈良は南都仏教の地といわれ、仏教繁栄には欠かせない土地でした。したがって、寺院も多くあり、そこでの写経の高まりから、墨の激しい需要が顕著となったのです。つまり、奈良墨は寺院や僧侶を背景にして、発展していきました。
製墨は、国の官史や僧侶の手によって行われていましたが、寺社の権力が衰退してきた戦国時代に、松井道珍の登場により、製墨業は、一般庶民の手にゆだねられました。これより以後、四百有余年にわたる『古梅園』(天正五年創業・西暦一五七七年)の歴史が開始されました。
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